近刊情報
悪夢の国のアリス
2015年にイギリスにて発売されたゲームブック。筆者、ジョナサン・グリーンは、英国ゲームブックの源流イアン・リビングストンとスティーブ・ジャクソンの直系の後継者であり、21世紀も意欲的にゲームブックを出し続けている。彼の記念すべき邦訳作品第一号となる本作を、翻訳者にして、ゲームブック識者でもあるハイブリッドライター綿峰一斎が抜群のセンスで軽妙に訳出。
本作はしかし、ファイティング・ファンタジーシリーズではなく、かのルイス・キャロルの有名童話『不思議の国のアリス』をモチーフにしたホラー仕立てのゲームブックとなっている。“不思議の国”でのおかしな体験から4年。すべてを忘れてしまったアリスはまたしても、不思議の国へと迷いこむ。
もしもアリスが“私を飲んで”と書かれた瓶の中身を飲まなかったら? 三月ウサギたちとお茶をしなかったら? そんな“イフ”を考えたことはないだろうか? その答えがここにある。もっとも『悪夢の国のアリス』では、諸々の結末は読者である、あなた次第なのだが。ゲームブックの本場イギリスにおけるゲームブックの21世紀事情を知る上でも必読の一冊。
著者:ジョナサン・グリーン
イラスト:ケブ・ロクスリー
表紙イラスト:ヨーグルト爆弾
価格:600円
2021/1/1 配信
墜ちて修羅、鋼刃舞うは極夜の空
株式会社エクスペリエンスより発売されたダンジョンRPG「新釈・剣の街の異邦人 ~黒の宮殿~」のノベライズ。2016年にリリースされたPlayStation Vita用の初回限定盤の同梱特典として書き下ろされたもので、のちにエクスペリエンスサイトで個別販売されるまでは非売品であった。
『隣り合わせの灰と青春』から30年近くが経過しても、ベニー松山の筆致はいささかも衰えず、むしろ冴えわたるばかりだ。原作ゲームの世界観が「剣と魔法が支配する異世界に転移する主人公たち――」であり、これは2010年以降のWEB小説の一ジャンルとしてありふれたものとなっているが、既視感というものは皆無である。むしろ、このジャンルを毛嫌いしている読者は「ベニー松山が書くとこうなる」というところを確かめてもらいたい。
また、ゲームノベライズ全般についてよく聞かれる声に“原作ゲームを知っていないとよくわからない”というものがあるが、本作を読んでいただければそれは固定観念なのだとわかる。ひとつひとつの映像を脳裏に具体的に結ばせる丁寧な描写と、それをしつこく感じさせない巧みな言葉繰りは、それだけで読者を魅了する力がある。
著者:ベニー松山
カバーイラスト:塚本 陽子
本文イラスト:大屋 和博
価格:900円
2020/7/21 配信
ラグーサ城攻防戦
幻想迷宮書店における書き下ろし新作ゲームブック(『バリアントナイト』(松友健著)、『護国記』(波刀風賢治著)に次いで3作目)。過去の新作の傾向を見ると、システム的なオリジナリティや世界観を重視する傾向があったが、この『ラグーサ城攻防戦』も例にもれず、個性豊かな登場人物たちが物語を彩ってくれる。
読者が主人公に同化し、成長することにウエートを置かれるゲームブック作品では、キャラクターを意図的に没個性的にしている作品も多いが、本作のコンセプトはその真逆をいっている。登場人物の目的、願い、思惑、打算など、心の動きをこれでもかと深く掘り下げ、ゲームブックの枠を超えた人間ドラマに仕上げている。読み進めるほどに、登場人物ひとりひとりの気持ちに共感し、思い入れ、ゲームをクリアするまで味わい深く物語の世界に没頭させてくれるだろう。
緻密に織り込まれた世界背景も独創性が高い。魔導の仕組み、作中に登場する魔剣の役割。異種族間交流、文化の違い。物語に散りばめられた謎。複雑に絡み合うそれらの要素が、ラグーサ城での戦いに臨場感を与えている。読者の選択はさまざまな結末へと導かれるマルチエンディングが採用されている。ゲームブックと相性が一見良さそうで、なかなか名作と呼ばれるのが難しい“戦記物”に挑戦した意欲作。
著者:上家 潮巳
イラスト:虎井 安夫
価格:500円
2020/5/21 配信
送り雛は瑠璃色の
1990年当時、ゲームブックのブームも終焉期にさしかかっていた頃に登場した異色のゲームブック。雑誌『ウォーロック』や、“ファイティングファンタジー・シリーズ”を手掛けていた社会思想社、教養文庫から発売された。
昭和の日本を舞台としているという世界観もさることながら、本作の特殊性は、独特の筆致と、ゲームデザインセンスによって、中盤から突き刺さる、強いメッセージ性にある。それは、ゲームを高品質のジュブナイル小説と融合させただけに留まらなかった。
より複雑に、より高難度に、というベクトルで作品数が増加していく同ジャンルの中で、ルールも展開も極限までシンプルにし、しかしながら、物語の厚みを損なわないための試行錯誤が詰め込まれた意欲作。
そのオリジナリティの高さゆえに、ゲームブックファンからも賛否両論ある。主人公を育成して楽しむことにウェートを置いたスタンダードなRPG路線を期待していると、こっびどく裏切られてしまうだろう。 和歌や日本の民俗学がモチーフになっており、ゲームブックとしてはシンプルでも、その根幹となっているテーマは難解に感じる読者も多かった。
それでも、魅せる物語として、後年、コンピューターゲームに舞台を移し、爆発的な成長をとげるアドベンチャーゲームのひとつの切り口として、“先駆け”だったことは間違いなく、本作に影響を受けて、ライター、クリエイターとなった人は多い。
2004年、創土社より細部を修正されて復刊。2013年にはiOSアプリとして配信された(現在は停止)。電子化は本作が初で、創土社版をベースに微修正を加えたもの。
著者:思緒 雄二
カバーイラスト:マキムラ シュンスケ
本文イラスト:高橋 政輝
価格:400円
2020/4/21 配信
顔のない村
1990年、社会思想社の教養文庫より刊行された『送り雛は瑠璃色の』に収載された短編で、当時のボリュームは200パラグラフであった。表題作ではないのに、巻頭に収載されており、『送り雛……』と両方読了することで両作品の関係性が見えてくるため、合わせて読んでおきたい
本作は当時ポピュラーだったファイティングファンタジーの基本ルールが採用されており、『送り雛……』と比べると幾分、敷居が低い作品となっている。
とはいっても、主人公の素性や目的など、状況の説明は冒頭から一切ない。『送り雛……』にも通じるが、思緒雄二はルールなどで物語を語ることを極力避ける。“可能な限り、文章描写から感じ取ることで、物語の世界に没頭して欲しい”これが彼の作家としてのポリシーなのだ。
書籍として単体での刊行は本作が初めてだが、2013年にiOSアプリとして配信され、そちらは約100パラグラフほど加筆されている。今回の電子書籍版は加筆増補版をベースに微修正を加えたもの。
著者:思緒 雄二
カバーイラスト:マキムラ シュンスケ
本文イラスト:高橋 政輝
価格:100円
2020/4/21 配信
絶対に読みたいゲームブック40選
本当に面白いゲームブックはどれか? 30年前まで遡って、日本初のゲームブックから2016年以前までに発売されたすべてのゲームブックを対象に、「単体作品部門」と「シリーズ作品部門」に分けて計40作品を紹介。有識者による詳細なレビューも添えて、絶版かどうかの情報も一目でわかる、ありそうでなかったゲームブック専用ガイドブック。
「続刊が出せるかどうかわからないから!」という編者の思いがあったのかどうか、定かではないが、ゲームブック未経験の読者のためのお試しミニゲームブックや、ゲームブックの挿絵を手掛けていたイラストレーターのコラム他、レビュアたちの個人的お勧め作品コラムなど、ただのガイドブックを超越した盛沢山な内容になっている。
編者:外城 わたる
価格:1100円
2018/12/1 配信