ゲームブック, 近刊情報

ラグーサ城攻防戦

幻想迷宮書店における書き下ろし新作ゲームブック(『バリアントナイト』(松友健著)、『護国記』(波刀風賢治著)に次いで3作目)。過去の新作の傾向を見ると、システム的なオリジナリティや世界観を重視する傾向があったが、この『ラグーサ城攻防戦』も例にもれず、個性豊かな登場人物たちが物語を彩ってくれる。

読者が主人公に同化し、成長することにウエートを置かれるゲームブック作品では、キャラクターを意図的に没個性的にしている作品も多いが、本作のコンセプトはその真逆をいっている。登場人物の目的、願い、思惑、打算など、心の動きをこれでもかと深く掘り下げ、ゲームブックの枠を超えた人間ドラマに仕上げている。読み進めるほどに、登場人物ひとりひとりの気持ちに共感し、思い入れ、ゲームをクリアするまで味わい深く物語の世界に没頭させてくれるだろう。

緻密に織り込まれた世界背景も独創性が高い。魔導の仕組み、作中に登場する魔剣の役割。異種族間交流、文化の違い。物語に散りばめられた謎。複雑に絡み合うそれらの要素が、ラグーサ城での戦いに臨場感を与えている。読者の選択はさまざまな結末へと導かれるマルチエンディングが採用されている。ゲームブックと相性が一見良さそうで、なかなか名作と呼ばれるのが難しい“戦記物”に挑戦した意欲作。

著者:上家 潮巳
イラスト:虎井 安夫
価格:500円
2020/5/21 配信

2020-05-21 | Posted in ゲームブック, 近刊情報Comments Closed