小説

墜ちて修羅、鋼刃舞うは極夜の空

株式会社エクスペリエンスより発売されたダンジョンRPG「新釈・剣の街の異邦人 ~黒の宮殿~」のノベライズ。2016年にリリースされたPlayStation Vita用の初回限定盤の同梱特典として書き下ろされたもので、のちにエクスペリエンスサイトで個別販売されるまでは非売品であった。

『隣り合わせの灰と青春』から30年近くが経過しても、ベニー松山の筆致はいささかも衰えず、むしろ冴えわたるばかりだ。原作ゲームの世界観が「剣と魔法が支配する異世界に転移する主人公たち――」であり、これは2010年以降のWEB小説の一ジャンルとしてありふれたものとなっているが、既視感というものは皆無である。むしろ、このジャンルを毛嫌いしている読者は「ベニー松山が書くとこうなる」というところを確かめてもらいたい。

また、ゲームノベライズ全般についてよく聞かれる声に“原作ゲームを知っていないとよくわからない”というものがあるが、本作を読んでいただければそれは固定観念なのだとわかる。ひとつひとつの映像を脳裏に具体的に結ばせる丁寧な描写と、それをしつこく感じさせない巧みな言葉繰りは、それだけで読者を魅了する力がある。

著者:ベニー松山
カバーイラスト:塚本 陽子
本文イラスト:大屋 和博
価格:900円
2020/7/21 配信

2020-07-21 | Posted in 小説, 近刊情報Comments Closed 

 

アイヴァンホー

スコットランドの作家ウォルター・スコットが19世紀に発表した長編歴史小説。獅子心王リチャード1世の時代のイングランドを舞台に青年騎士の活躍を描く冒険譚。後の様々な小説に大きな影響を与えた、記念碑的な作品である。

架空の主人公を史実に組み込んだ作品の元祖ともいわれており、今読んでもまったく色あせないヒロイック性はとても200年前に書かれたとは思えない。ノルマン人とサクソン人の対立の歴史を背景に、恋あり、活劇あり。現代ライトノベルをも彷彿とさせるキャラクター性の高さはまったく時代を感じさせず、読み返すほどに面白さが増していく。

日本国内でも何度となく翻訳された名作ながら、紙の書籍は1997年講談社青い鳥文庫の刊行が最後となっていた。このたび電子書籍として堂々の新訳。

長編ということもあり、紙媒体で出版されたものは上下巻の分冊とされることが多かったが、本書では電子書籍ならではの長所であるポータビリティを生かし、全編を1冊にまとめている。

著者:ウォルター・スコット
価格:1200円
2019/5/11 配信

2019-05-11 | Posted in 小説Comments Closed 

 

ゼンダ城の虜

イギリスの作家、アンソニー・ホープによる小説。好漢ラッセンディルの波乱万丈の三カ月を描く冒険絵巻。

原作が出版されたのは1894年。だが、古さを感じさせない王道感。“少数精鋭で難攻不落の城に挑む”、“お姫さまとの道ならぬ恋”、数々の胸躍る設定はその後、多くの冒険小説に定番として受け継がれていく。冒険小説が好きなら必ず読んでおきたい一冊。

魅力的なキャラクターたちの織り成す味のある会話シーン、ユーモア溢れる章タイトルなど、作品全体から漂う作者の圧倒的なセンスは凄まじい引力で読者を物語に引き込む。

これまで書籍化の他に、映画化、舞台化などもされており、最近の日本では2008年にNHK-FM放送でラジオドラマとなっている。書籍としては1970年の東京創元社刊他、幾度か翻訳されているが、電子書籍となるのは本書が初となる。

著者:アンソニー・ホープ
訳:枯葉
価格:800円
2017/6/21 配信

2017-06-21 | Posted in 小説Comments Closed 

 

風よ。龍に届いているか

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コンピュータRPG『ウィザードリィ』、ファミコン版2にあたるシナリオ『リルガミンの遺産』を題材にした小説。『隣り合わせの灰と青春』の続編にあたり、宝島社の『ファミコン必勝本』に連載された。1994年9月に同社より単行本が出版され、瞬く間に完売するも、増刷無し。以後、2002年に創土社から上下巻ハードカバーで復刊されるまでは、大変入手困難な作品となる。

前作同様、筆者の重厚な描写は、元となるゲームのデジタルな事象を、読者の想像力の奥底まで刺激する緻密な世界観に変換していく。今作におけるそれは、ひとつひとつのミニマムな要素にとどまらず、作者独自の解釈を元に、一点に収束し、壮大なスケールに生きる戦士たちの叙事詩となる。ベニー松山の小説ウィザードリィ3作品の中でも、集大成と言える名著。

なお、ハードカバーで同時収載されていた短編『不死王』は電子版では分冊となっている。

著者:ベニー松山
イラスト:高橋政輝
価格:1200円
2016/7/11 配信

2016-07-11 | Posted in 小説Comments Closed 

 

不死王

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『隣り合わせの灰と青春』と世界観を同じくするウィザードリィを題材にした短編小説。1991年、JICC出版局より刊行された『ウィザードリィ小説アンソロジー』にて初出、その後、1999年に創土社より復刊された『風よ。龍に届いているか(下)』に収録された。

その内容は原作ゲームにはないオリジナルのものになっており、前作で著者が構築した世界観をさらに細密に掘り下げている。単なるスピンオフ作品ではなく、人間なら誰しもが抱えているであろう自己表現における苦悩や葛藤を想起させる深いテーマが、洗練された描写で綴られている。

後に書かれた『風よ。龍に届いているか』へと繋がる伏線や、前作『隣り合わせの灰と青春』のエピソードを補填する内容もちりばめられているが、全てを知った上で読み返してもどこまでが予定されていたものなのかすら気づかせないナチュラルな物語の運びは、見事という他はない。

著者:ベニー松山
イラスト:高橋政輝
価格:100円
2016/5/1 配信

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2016-05-01 | Posted in 小説Comments Closed 

 

隣り合わせの灰と青春

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ベニー松山による、コンピュータRPGの古典的名作『ウィザードリィ』を題材にした小説。1988年にJICC出版局(現、宝島社)より刊行。1998年には集英社で文庫化されたが、いずれも現在絶版。

キャラクターレベルや、呪文体系、善悪の戒律、転職などといった、ゲーム本編ではシステムとして存在しているのみの概念を、血の通ったリアリティある考察として再構築し、物語の一部として叙述する筆力は圧巻の一言。

原作の世界観をひとかけらも損ねることなく、バックボーンをこれでもかというくらいに肉付けし、紡がれるストーリーは原作を知らぬ読者にすら感動をもたらした。ゲームノベライズの歴史に名を残す傑作である。

著者:ベニー松山
イラスト:高橋政輝
価格:600円
2016/4/11 配信

8868139370
2016-04-11 | Posted in 小説Comments Closed